大学院の研究の一環で、医療施設に勤務させて頂いていた。
対象となる「社会」に構成員の一員として滞在しながら
直接観察・調査させて頂く、「参与観察」のスタイル。
毎瞬毎瞬、注意深く患者を観察する。
適切なケアを提供するために、相手をしっかりと感じ取る。
微に入り細を穿ち観察し、相手の奥の奥まで感じ取ろうと心掛ける日々の中、
思わぬ事態が発生した。
ある日のこと。
患者さんとドクターは、沈黙して向き合っているだけなのに、
私の耳には、明瞭すぎるほど明瞭な声で、彼らの心の会話が響いてきた。
患者:「どうしますか、って言ったって、
貴方がもう、方針決めてるじゃないですか・・・。」
医師:「他でもなくご自分の病気なんだから、基本的な事くらい、
ご自分でも知ろうとしてくださいよ・・・。」
思わず目と耳を同時に疑ったが、
患者さん・ドクター共に腹話術師では無かった。
ドクターが思わず感情的になってしまったある時などは、
心の声がうるさくて、実際の会話の方が聞き取れないほどだった。
ステレオサウンドの深みのある重低音に度肝を抜かれつつ、
「違う違う。私が聞くべきは“処置の指示”でしょ!」と
自分の耳を、たしなめていた。
また、ある日のこと。
さほど見なくなっていた人体の電磁エネルギーが、
やけにリアルに見え・匂い始めた。
これはマズイ。さすがに焦る。
オーラの色が濃すぎて、実物がちゃんと判別できないこともあるからだ。
マンシェットを巻こうと腕を掴んだら、
黒い影で覆われていて腕の形がよく見えない。
濁った霧のようなエネルギーを発している人の近くでは
そのエネルギーの腐臭に、思わず息を止めて踏ん張ってしまう。
コントロールできない感覚を恨めしく思いながら
「怪しく思われないようにしなきゃ・・・」
と自分なりに精一杯、気を遣っていた。
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